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   青春18キップで廻る        
  北近畿・餘部鉄橋の旅  

 
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 前日、早朝に発つことをフロントに継げていたものの、なんと朝の4時台にちゃんと対応してくれた。
まだあたりは真っ暗ながら、遠くの空にはゆるやかなグラデーションが出始めていた。ホテルから駅まで徒歩1分の距離だが、駅舎建て替え工事の為、やや迂回させられた。4時台の福知山線のホームには、私の他にも一人の初老の男性がいた。鈍行を乗り継いで米子まで行くらしい。どのくらいで米子まで行けるか尋ねられたので、時刻表を追っていくと、京都・兵庫・鳥取とまたぐ山陰本線も、やはりというか4回ほどの乗換が必要だった。
 徐々に空に色が乗ってくる頃、始発列車の(477M)が入線してきた。豊岡止まりの列車はなんと、482系特急車両だった。特急「北近畿」の回送を兼ねた間合い運転だろう。特急とはいっても3両編成なのが、この地方のにおける「本線」の「特急」の位置づけなのだろう。

 年季の入った旧型特急列車とはいえ、リクライニングシートは快適そのものである。早起きは三文の徳とは、まさにこのことである。鉄道ビキナーにとって、こうしたサプライズはたまらない。

 5:11に福知山駅を出発した列車は、しばらく北タンゴ鉄道宮福線と併走し、由良川に沿って北上していく。徐々に山々の輪郭、朝霧に包まれた風景が姿を表しはじめた。荘厳で神秘的な丹後の風景。併走する国道9号線は、車で何度も通った道だが、この時間帯の経験は無い。車窓から飛び込む景色のあらゆるものが至福である。列車はやがて由良川の支流牧川に沿って西に進路を変え、上夜久野を過ぎ、矢名瀬の手前で兵庫県に入った。矢名瀬は旧山陰道の表街道と裏街道が合流する交通の要衝で、市場町でもあり今なお2軒の酒蔵がある。数年前に訪れた記憶がよみがえる。
  太陽が地平線を越え、山の輪郭からこぼれる朝日が目に眩しい。山陰道と播但道の分岐として栄えた和田山の次は、山陰道と但馬街道が交差する要衝であり、養父郡の中心として栄えた養父の町で、いずれも過去に訪問している。和田山と養父にはそれぞれ1軒の酒蔵があります。やがて、現在の養父郡の中心地、八鹿を経て次の江原駅で列車交換。さらにその次の国府ではなんと、旧国鉄のディーゼル特急列車であるキハ181系と列車交換をした。
 
 早朝から興奮の連続の中、列車は6:20豊岡に到着した。豊岡は兵庫県の日本海側における中核都市で、その昔は京極家の城下町として発展した町だ。現在は第3セクターの北近畿タンゴ鉄道が乗り入れている以外に、交通の要衝といったものは見受けられないものの、一応山陰本線における運行の分岐点なのであろう。

 豊岡で待っていたディーゼル列車はキハ47系2両ワンマン(161D)で、小豆色の落ち着いて、かつ安心できる塗装であった。もっともこの色の列車もまた、今朝一度すれ違っている。



 この列車(161D)に乗った瞬間から、今回の旅の醍醐味が始まるのである。列車は6:33豊岡駅を出発。円山川に沿って日本海を目指す。車窓から見下ろす、併走する道もまた、何度も走った道であり、いよいよ次の城崎温泉も合わせ、非常に感慨深いものがある 。
 城崎温泉は1500年の歴史を持つ兵庫県随一の名湯地で、川沿いに植えられた柳と石畳の温泉街が印象的で、多くの文人墨客が愛した温泉地である。そしてこの私もまた、幾度も訪れ、昨年には念願の宿泊と外湯巡りを果たしたのだ。その記憶がよみがえってきた。
 城崎温泉を過ぎると、いよいよ日本海に面したリアス式の海岸線を縫うように走る。小さな入江には小さな集落が見え隠れする。山陰本線は山側をトンネル越しに走る為、意外に海を見ることはあまり無かった。
やがて、この地域の中心都市である香住を過ぎると、いよいよクライマックスの餘部へ足を踏み入れるのだ。餘部鉄橋手前の鎧駅で列車交換。目の前に見えるいトンネルの先が、かの念願の「餘部鉄橋」だ。
 ちなみに、餘部駅が開設される以前は、この鎧駅が餘部住民の玄関駅であったのだ。列車交換を追え、ついに列車は走りだした。トンネルを抜けるとすぐに鉄橋に放り出される事は十二分に承知していた。ゆえに、カメラのシャッターに添えられた指が震える。
 一瞬、トンネル間に設けられたスノーシェードから見える日本海が遮られた後、眼下に餘部の集落と入江が飛び込んで来た。かつて何度も下から見上げた鉄橋を、いま現実に走っているのだ。しかし、不思議なくらいにリアリティーが無い。そえは一瞬の夢の中の出来事のようであった。


 
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Page3■ 山陰本線・いざ餘部へ
page4■ 念願の餘部鉄橋を渡る!
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