一路一会鉄道の旅・鉄路一会>3連休パスで廻る北海道と北奥州
   3連休パスで廻る 
  北海道と北奥州の旅
 
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 盛岡駅から徒歩5分ほど、北上川に架かる不来方橋(こずかたばし)を渡った道の突き当たりに、木造3階建ての歴史ある商人宿、旅館「大正館」がある。素泊まり一泊3,500円で家庭的なもてなしと、畳みに布団が好きならば非常にありがたい宿である。このあたりはまだ、城下町特有の古い商家町の面影があるが、道路拡張と区画整理の為に、少しずつ消え始めている。
  ちなみに不来方(こずかた)とは、盛岡の古い地名であり、三戸からこの地に拠点を移した南部重信が、縁起の悪いその地名を「盛り上がり栄える岡」の意味する盛岡に改称したことに現地名が始まる。
 大正館は年老いた女将が一人で切り盛りしているようで、料金は先払い。今日最初に乗る、田沢湖線の始発は5:22。よって早朝5時にこっそりと宿を出る。もちろん、前日に翌朝の出発の事は伝えてある。


<2日目>
 この季節の朝5時はまだ夜同然である。コンビニにで軽食を購入して盛岡駅をめざす。昨晩の歩道はアイスバーンに近い状態の雪で覆われていたが、今朝はだいぶ溶けており、歩きやすくなっていた。この時間に空いているのはコンビニと全国チェーンの牛丼屋くらいである。駅前に人影はない。
 しかし、駅構内には意外に人が多かった。改札は5:10からで、みなそれを待っている。
 盛岡駅は北東北の中心都市の玄関口・ターミナル駅にふさわしい、近代的な駅舎にリニューアル駅構内には全ての路線にラインカラーが入っている。新潟の玄関口である、郷愁漂う新潟駅とはだいぶ違う。

 田沢湖線は1番線ホーム。ブルーとピンクの帯の6両編成の701系5000番台車両が止まっている。ローカル線と思ったが田沢湖線はこれほど利用客が多いのか?と思ったら、途中の駅で2両を切り離すらしい。
  通勤型車両の701系を見たとき、正直「あちゃ〜」と思ったが5000番台の田沢湖線車両は、ボックスタイプのクロスシート仕様であった。秋田新幹線「こまち」が走る田沢湖線は新幹線と同じ標準軌なので、この車両も標準軌である。
 田沢湖線は盛岡から大曲までの75.6キロを約2時間で結び、途中には観光地も多い。
 定刻どおり、田沢湖線の始発はゆっくりと盛岡駅を後にした。駅を出て大きくカーブすると、高架から同じくカーブを描いて降りてくる新幹線の連絡線が合流する。あたりはまだ、真っ暗である。車内の乗客はまばらだが、その半分はおそらく旅行者で、さらにその半分は、おそらく「鉄っちゃん」である。

 単線とはいえ、ミニ新幹線規格に線路の幅だけでなく、土台にも手が加えられ、一部区間は直線に付け替えが行われているようである。そこを701系列車は、怒涛のスピードで走る。ステンレスボディーに通勤型列車と同じデザインでローカル線らしさが無いのは置いておいても、標準軌による安定感は狭軌の在来線特急を上回るといっても過言ではない。
 大釜駅を過ぎたあたりから、市街地の景色が減り始める。小岩井は全国に知られた農場のある駅である。小岩井農場は日本最大規模の民間総合農場で三菱グループである。日本鉄道副社長の小野義眞、三菱財閥の岩崎彌之助、鉄道庁長官の井上勝の、共同創始者3名のそれぞれ頭文字を採り「小岩井」の名が生まれた。

 雫石を過ぎ、赤渕駅で2両の車両を切り離す。この2両が盛岡行きの始発となる。切り離しに架かる作業時間は約11分。新幹線の様に全自動とはいかない。降り積もって固まった雪のホームに降り、切り離しを見学する。
 5:53出発。仙岩峠へ向けて時速100kmで上っていく。最前部の運転手の横でライトに照らされた進行方向の車窓を眺めていると、これが新幹線の通る路線か、と思えるようなレンガ積みの狭く小さなトンネルが連続する。
 701系車両は垂直な正面形状のためか、トンネルに突入するたびに衝撃波が打ち付け、わずかな隙間から冷気が飛び込んでくる。風圧が叩きつけるというよりも、殴りつける感じで、車体がぶれる。
 
  仙岩トンネルを抜けて秋田県に入り、ようやくこの路線の一区切りである、田沢湖駅に到着。ここで22分の停車。ホームの連絡通路で俯瞰撮影をしたあと、改札を出て駅の表にでる。ガラス張りと木材をふんだんに使った今風の駅舎は、秋田有数の観光地である田沢湖の玄関口にして新幹線の停車駅らしい風格を備えている。
 駅舎が新しくなった頃、車で立ち寄った記憶が鮮明に残っている。 田沢湖駅とは言うものの、田沢湖は山のはるか向こうにある。このあたりは生保内(おぼない)といい、角館街道の宿場町として発展した場所だ。

 列車が出発する6:31が近づいてきた。山の稜線が少しずつ浮かび上がってくる。凛とした空気と、遠くの山々までくっきりと見える透明度の高い、神秘的な風景。「青の世界」。
早起きは三文の徳というが、今に限って言えば、それ以上の価値がある。



 日が昇って、いまさら気が付いたのだが、この701系は本来通勤・近郊型列車としてロングシート仕様前提で設計されているため、そこに無理やりボックス席を設けたことで窓と席の配置がすこぶる悪い。真横に視界をさえぎる分厚い柱がある。体を前に乗り出さないと窓の外が見えない。
 車窓から見える国道46号線。この国道もまた車で何度も走った道であり、眼下の国道を走る車を眺めながら、かつての自分の走る姿を重ねた。
 神代で3分間の停車。秋田新幹線のぼりの始発「こまち2号」との列車交換。その後も何度か「こまち」とすれ違った。神代といえば、羽後長野にある酒蔵・鈴木酒造店の特別純米酒にその銘があった事を思い出す。

 やがて角館へ。秋田の小京都と呼ばれる角館は、佐竹秋田藩の分家、佐竹北家の城下町である。商家町よりも武家屋敷地区がその規模とともに人気があり、映画のロケにも度々使われる。角館駅からは最近その存続が危ぶまれている「秋田内陸縦貫鉄道」通称縦貫線が接続している。最前列の窓から併走する標準軌と狭軌の線路を見比べると、なるほどその違いがはっきりと分かる。
 角館の次の羽後長野は角館入封以前に佐竹北家の城下町として栄え、雄物川舟運と街道が交差する為、水陸路の要衝、在郷町として栄え続けた町である。今もその面影を残し、かついくつかの造り酒屋があるが、なかでも「秀よし」鈴木酒造店があり、重厚な店蔵と庭園は一般公開されている。

 太陽が顔を出し、朝もやの風景を金色に照らし出す。神秘的な雪原風景の中を列車は終点目指して走り抜ける。
田沢湖線は大曲駅1番線に入線。
 大曲という地名は雄物川が西に大きく曲がっていることからその名が生まれ、羽州街道も、川に沿うように大きく曲がっている。江戸期には六斎市が開かれ、水運と陸運の要衝、物流の中心として栄えた。当然この町には八重寿銘醸の「八重寿」という地酒がある。

 7:20に接続する奥羽本線・湯沢行きを2番線で待つ。やってきたのは、これまた701系の通勤列車で、ロングシート車両。奥羽本線の帯はピンク1色で、車掌は女性でした。横手駅は3つ目なのでドア付近に立つ。
 飯詰駅は豪商の屋敷が連なる在郷町・角間川と、仙北郡の酒どころ、湧き水の町・六郷の玄関口。後三年駅は鎌倉時代に源義家が清原氏を滅ぼした後三年の役の戦場となった場所。そして「雪のかまくら」で知られる横手は3番線に停車した。横手は江戸時代に秋田藩佐竹氏の支城として栄えた町で、武家屋敷の遺構がわずかに残る。横手にも阿桜酒造の「かまくら」という銘の地酒がある。

 北上線の待つ1番線へ。今回初めてのキハ100系気動車。セミクロスシート前提で設計されている為、今朝乗ってきた田沢湖線の車両とは違い、シートと窓の関係もグッドである。7:45列車はエンジンを唸りながら動き出した。そう言えば今日は初めての気動車である。
  横手ではそこそこ積雪があったが、少し郊外に出ると、一気に雪深くなってきた。北上線には国道107号線が絡み合うように並走し、視線の先の山塊の中腹には秋田自動車道の高架・橋梁が大蛇のように絡んでいる。
 黒沢駅を過ぎると分水嶺を越え岩手県に入る。 北上駅を出て36分後の8:21に”ほっとゆだ駅”に到着。
駅舎の中に温泉がある事で知られ、浴室の壁には信号機がある。列車が近づくと点滅するのだ。ここで、降りると次の接続まで2時間以上ある。時間のロスを心配したが、ただ鉄道を乗り継ぐだけの旅には終わりたくなかったので、降車して250円を払い温泉に入った。湯上りの地ビールは最高だった。



 次の北上行きは10:42発である。ホームには人があふれ始めている。なにやら気になる会話が耳に。
「来る列車は、2両かな、1両かな・・・」考えもしなかった。今朝乗ってきた列車は2両だった。車内も比較的空いていた。しかし、やってきたのはやはり1両編成だった。しかも満員。ボックス席は通路側のみ空がある。ここから終点の北上まで立ち続けるのはつらいので、空いている席に腰をおろしたが、満員列車は乗客の熱気で、窓は曇って外は何も見えない。満員の車内を見続けるのも苦痛なので、それならドア付近に立ってた方がまし。
 錦秋湖(湯田ダム)は山に隔てられて全景を一望することはできないが、その一部湖畔を列車は走る。紅葉シーズンで人気の湖だが、雪の季節も神秘的で良い。秋田自動車道から大きく引き込んだサービスエリアがあることでも知られている。

 キハ100系気動車はワンマン運転の為、編成や向きにもよるが、大抵は運転席の横が解放されている。この車両は乗務員部分が仕切られているものの客席と乗務員部分を隔てる壁もガラスも無くフロントビューを楽しめる事が人気となっているらしい。さすがに先頭の窓は曇っておらず、視界良好。やがて列車は山間部を抜け、平野部の直線をひた走る。そしてようやく、東北新幹線の高架が見えてきた。北上駅の0番線に滑り込んでいく。



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